【量子力学】角運動量演算子成分の交換関係を導くときのエッセンス

2019年3月17日

演算子 \( A \) と 演算子 \( B \) の交換子とは、\( [A, B] = AB-BA \)で、交換子がどのような条件を満たすのかを示した、\( [A, B] =AB-BA= \) なにがし を、交換関係といいます。\( [A, B] = 0 \) なら、\( AB=BA \) なので、\( A \) と\( B \) を入れ替えることができ、そのことを交換可能といいます。

不確定性原理は、\[ <(ΔA)^2>・<(ΔB)^2> \geqq \frac{|<[A, B]>|^2}{4}  \] ( \( <> \) は平均を表す)ですが、\( A \) と \( B \) が交換可能しない場合( \( [A, B] \) がゼロでない場合)、右辺が 0 でなくなるので、\( ΔA \) と \( ΔB \) のどちらかを 0 とした場合、もう片方は 0 になりえない、つまり \( A \) と \( B \) が同時に確定できないことを表します。よってこの式から、交換関係がゼロでないなら同時測定が不可能であることが言えることになります。

角運動量成分の交換関係は、角運動量の3成分 \( l_x \), \( l_y \), \(l_z \) に関して、それらのうちの2成分が同時に正確に測定できない、同時に確定できない(片方が確定した場合、もう片方が定まらない)ことを表しています。

■ 角運動量の交換関係 \( l_xl_y-l_yl_x = i\hbar l_z \) を導け。

試験でよくでそうなこの交換関係ですが、これ自体ちんぷんかんぷんではないでしょうか。でも、分かっていればただの算数。いったいどこが引っかかるのか。どこがエッセンスなのでしょう。

エッセンスは、

①角運動量を位置、運動量で表す。角運動量が \( l_x = yp_z-zp_y \) であることがすぐ出てくる(たすき掛けですぐ計算できる程度にわかる) ②位置、運動量の交換関係 \( xp_x-p_xx= i\hbar \) を知っていること ③\( l_x \), \( l_y \), \( x \), \( p_z \) などについて、交換可能でないなら勝手に順序を入れ替えてはいけないことに留意して計算できる。

これらのことは、分厚い教科書だけでなく、ブルーバックスをはじめ小型の科学読みものなどを眺めたりしていると、ことあるごとに文章や簡単な数式として登場することも多いので、片っ端から読む気概があれば、時間の経過とともに自然に身につきます。精読でなくても全くよく、読書量をこなすことは大事です。

ではポイントに留意しながら証明していきます。

\( l_xl_y-l_yl_x \) を計算。ここで、\( l_x \), \( l_y \) がどのようにあらわされるかわからなくてはなりません。知っていれば、 \( l_x=yp_z-zp_y \), \( l_y=zp_y-xp_z \) を代入します。\( yp_z \) も \( zp_y \) も \( zp_y \) も \( xp_z \) も、順序は 位置の後に運動量がくるという順序のままにしておきます。

\( l_xl_y-l_yl_x \)

\( = (yp_z-zp_y)(zp_x-xp_z)-(zp_x-xp_z)(yp_z-zp_y) \)

右辺を展開します。エッセンス③、交換しないものを把握します。交換しないのは \( x \)と\( p_x \), \( y \)と\( p_y\) , \( z \)と\( p_z \) のペア(ただしこの式では \( zp_z \), \( p_zz \) しか問題にならない。\( x \) と \( p_x \)との積 や \( y \) と \( p_y \) との積はでてこない)。ここが \( xp_x-p_xx=i\hbar \) (≠0; \( x \)と \( p \) を入れ替えたものである \( xp_x \) と\( p_xx \) は違う)を思い出すところです(エッセンスで言った②)。交換するものだけ前に出し、前に出したものは位置=>運動量の順序、さらに アルファベット順 にすることにします。

\( yp_zzp_x \) => \( yp_xp_zz \) ; \( p_z \) のほうが\( z \)より前に来るという順序は変えてはいけなくて、交換関係と関係ない(交換する) \( y \) と \( p_x \) を前に出してしまう。掛け算の結果は位置の後に運動量がくる順序でならべるので、\( yp_xp_zz \) (=\( y(位置)p_x(運動量)p_zz \))

\( zp_xyp_z \) => \( yp_xzp_z \) ; \( z \) のほうが \( p_z \) より前に来るという順序関係は変えず、\( p_x \) と \( y \) を前に出し \( yp_x \) の順序にしてしまう。

順序に関しては、基本的に掛け算なんだから順序はどんなでも自由に入れ替えていいけれど、交換しない演算子だけは、順序は変えてはだめなのだ、という言い方もできます。演算子は入れ替えていいことが自明のものではないということも確かですが。

 

展開の結果は、

\( l_xl_y-l_yl_x = \)

\( \color{OrangeRed}{yp_x}p_zz-\color{SkyBlue}{xyp_zp_z}-\color{YellowGreen}{zzp_xp_y}+\color{Orange}{xp_y}zp_z \)

\( – ( \color{OrangeRed}{yp_x}zp_z -\color{YellowGreen}{zzp_xp_y} – \color{SkyBlue}{xyp_zp_z} + \color{Orange}{xp_y}p_zz ) \)

\(\color{SkyBlue}{薄青}と\color{YellowGreen}{薄緑色} \)のついた部分がそれぞれ相殺し、\( \color{OrangeRed}{yp_x}(p_zz-zp_z)-\color{Orange}{xp_y}(p_zz-zp_z) \) だけが残ります。

これらはまとめることができて、\( -( \color{Orange}{xp_y}-\color{OrangeRed}{yp_x})(zp_z-p_zz) \)

 

\( xp_y-yp_x=l_z \) …エッセンス①

\( zp_z-p_zz=i\hbar \) …エッセンス②

を代入すれば、

\( l_xl_y-l_yl_x= i{\hbar}l_z \)

 

エッセンスなんて、ただ単にこの問題を解くのに必要な要素はどのようなものか分析しただけのものなので、どうでもよいものなのですが、結果はこのようになりました。はい、昔はわけがわかりませんでしたが、今ではただの算数のように鉛筆で計算できるようになりました。つまり算数って足し算も掛け算も理由なんかあまり気にしないで知ってるやり方で筆を進めるだけですよね。

おまけ:たすき掛け

\[ \left( \begin{array}{c} \color{Purple}{l_x} \\ \color{Lavender}{l_y} \\ \color{Lavender}{l_z} \end{array} \right) = r \times p = \left( \begin{array}{c} \color{Lavender}x \\ \color{OrangeRed}y \\ \color{Violet}z \end{array} \right) \times \left( \begin{array}{c} \color{Lavender}{p_x} \\ \color{Violet}{p_y} \\ \color{OrangeRed}{p_z} \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} \color{OrangeRed}{yp_z} – \color{Violet}{zp_y} \\ \color{Lavender}{zp_x – xp_z} \\ \color{Lavender}{xp_y – yp_x} \end{array} \right)\]

 

\[ \left( \begin{array}{c} \color{Lavender}{l_x} \\ \color{Purple}{l_y} \\ \color{Lavender}{l_z} \\  \color{}{} \end{array} \right) = r \times p = \left( \begin{array}{c} \color{Lavender}x \\ \color{Lavender}y \\ \color{OrangeRed}z \\ \color{Violet}x \end{array} \right) \times \left( \begin{array}{c} \color{Lavender}{p_x} \\ \color{Lavender}{p_y} \\ \color{Violet}{p_z} \\ \color{OrangeRed}{p_x} \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} \color{Lavender}{yp_z-zp_y} \\ \color{OrangeRed}{zp_x} – \color{Violet}{xp_z} \\ \color{Lavender}{xp_y – yp_x} \\ \color{Lavender}{} \end{array} \right) \]

\[ z の下はループして一番上の x 、 p_z の下は p_x … \]