【量子力学】摂動法~時間に依存する摂動

2020年4月28日

摂動法とは、ある状態に、少しだけ外部からの擾乱(観測や外場)が加わった場合に、シュレディンガー方程式に「摂動項」なるものを設けて(加えて)、方程式を解く方法です。

※擾乱、というのは小さな変化、ちょっとした乱れ、を意味しますが、観測は状態に小さな変化を加えることによって得られる反作用により状態を知ることなのであるから、観測も擾乱とみなされます。

擾乱の加わったハミルトニアン \( H \) を、\( H = H_0 + \lambda H’ \) のように書いて、シュレディンガー方程式に代入していきます。\( H_0 \) は擾乱の加わっていない状態のハミルトニアン、\( \lambda H’ \) が擾乱を意味する摂動項です。後で具体的に述べますが、(もちろん擾乱の加わった状態の)波動関数 \( \psi \) の形を \( \psi = \psi^{(0)} + \lambda \psi^{(1)} + \lambda^2 \psi^{(2)} + … \) のように仮定します。

摂動法の何が面白いのかというと、てはじめとしては、はじめにエネルギーが \( E_i \) であった状態が エネルギー \( \hbar \omega \) の電磁波を受けて \( E_f = E_i + \hbar \omega \) になることはエネルギー保存則から理解できますが、そのことを摂動法(時間変化する摂動論)によっても理解、または導くことができます。これによれば、状態 \( E_i \to E_f \)への遷移確率も求めることができるのです

また、水素原子に弱い磁場や電場をかけるのはまさに擾乱を加えるということですが、この際に現れるゼーマン効果やシュタルク効果を説明し、その場合の(始)状態の(終)状態への遷移確率も計算することができます。(ただ、この、ある時突然一定でその後変化しない擾乱を加えることが、ゼーマン効果やシュタルク効果にあたるという以上の説明を、ほかの解説で見ませんので、ちょっと自信がありませんが、たとえばゼーマン効果の摂動ハミルトニアンは \[ H’ = \frac{\mu_B B}{\hbar}l_z \] ですが、これは、方程式上明らかに時間的に一定の摂動ハミルトニアンであることを示しています)

ちなみに、ゼーマン効果(弱い磁場を加える)や、シュタルク効果(弱い電場を加える)とは、原子や分子に磁場や電場を加えたときに、エネルギー状態の縮退が解けて、そのために原子や電子から放出される光のスペクトル線も分裂して見える効果のことを言います。この効果を利用すれば、遠い星間空間に存在している磁場を測定することもできます。とてもすごい感じがします。

それでは、摂動の方法で、以上に述べた興味ある結論を導いてみましょう。

 

以下の設定をもとに、いきます。

 

ハミルトニアン \( \hat{H_0} \) の固有値方程式 \( \hat{H_0} \phi_n  =  E_n^{(0)} \phi_n \) が解かれており、固有関数 \( \phi_n \) は規格直交完全系をなす。この状況で、時間 \( t \) に依存する摂動ハミルトニアン \( \hat{H’}(t) \) による固有状態間の遷移を考える。
ここで、摂動パラメータ \( \lambda \) を用いてハミルトニアンを \( \hat{H} = \hat{H_0} + \lambda \hat{H’}(t) \) と記す。この \( \lambda \hat{H’}(t) \) の部分が、外から加わる、弱い擾乱、つまり、時間的に変動しない一定の磁場や電場だったり、時間変化する電磁場だったりを表しています。

注:以下の計算中において、ハミルトニアン \( \hat{H} \) などの ハットはすべて省略し 単に \( H \) などと書くことにし、\( U_{mn}(t) \) と \( \psi_n(\textbf{r}, t) \) は単に \( U_{mn}  \ 、 \ \psi_n \) と書くことにします。さらに、\( E_n^{(0)} \) は \( E_n \) と表記する。

 

(ステップ 1)

シュレディンガー方程式の解を \( \psi_n( \textbf{r},  t) = \sum_{m} U_{mn}(t)\phi_m e^{-i\omega_m^{(0)} t } \) (ここで \( \omega_n^{(0)} \equiv E_n^{(0)}/\hbar \) ) とおいて、\( U_{mn} (t) \) の時間変化率 \( dU_{mn} (t)/dt \) を与える式を求めます。\( \psi_n( \textbf{r},  t) \) は、シュレディンガー方程式から得られる複数個の解の \( n \) 番目の解です。

\( U_{mn} (t) \) は遷移振幅を示していますが、このことは後で述べます。今は摂動法の方程式さえ手解ければいい。

通常の解説では計算など省略していかにもスマートに書いていますが、この添え字のいっぱいある係数を解く計算が一番のやま、めんどうなところなのです。それを追っていきます。

 

【方針】 やることは、時間依存する場合のシュレディンガー方程式
\[ H \psi_n = i\hbar \frac{\partial \psi_n}{\partial t} \]

に、

ハミルトニアンの形、\( H = H_0 + \lambda H’ \) と 問題文の、\( \psi_n \) の表式を代入し、等式の左から \( \phi_f^{*} \) をかけてから、全空間で積分します。これだけのことですが、添え字がたくさんでてくる煩雑さのために、計算力が必要となります。なお、\( \phi_f \) は \( f \) 番目の固有状態のことです。

 

さっそく計算すると、まずシュレディンガー方程式に \( H = H_0 + \lambda H’ \) を代入すると、

\[ (H_0 + \lambda H’ )\psi_n = i\hbar \frac{\partial \psi_n }{\partial t } \] となります。 固有状態に関する方程式は解けていて、 \( H_0 \phi_n = E_n \phi_n \) ということであるから、この式は、\[ ( E_n + \lambda H’) \psi_n = i\hbar \frac{\partial \psi_n }{\partial t } \] とかくことができます。ここに、\( \psi_n \) の表式を代入し、右辺においては微分を計算すれば、

左辺 \( = (E_n + \lambda H’ ) \sum_m U_{mn} \phi_m e^{-i\omega_m^{(0)} t } \)

右辺 \( = i\hbar \sum_m \Biggl( \partial U_{mn}/ \partial t + U_{mn} (-i\omega_m^{(0)} )\Biggr) \phi_m e^{-i\omega_m^{(0)} t }  \)

となります。ちなみに \( \phi_m \) は固有状態を示すものであって定義上時間変化しません。

 

さらに、左辺、右辺にそれぞれ \( \phi_f \) の複素共役 \( \phi_f^* \) をかけて、全空間で積分します。この際細かく書き下すことにすれば、

左辺 \( = E_n \sum_m U_{mn} \Biggl( \int \phi_f^* \phi_m d \textbf{r} \Biggr) e^{-i\omega_m^{(0)} t } \ + \ \lambda \sum_m U_{mn }\Biggl( \int \phi_f^* H’ \phi_m d \textbf{r}\Biggr) e^{-i\omega_m^{(0)} t } \)

右辺 \( = i\hbar \sum_m \Biggl( \partial U_{mn}/ \partial t + U_{mn} (-i\omega_m^{(0)} )\Biggr) \Biggl(\int \phi_f^* \phi_m d \textbf{r} \Biggr) e^{-i\omega_m^{(0)} t }  \)

ここで、\( \phi \) の規格・直交性すなわち、

\[ \int \phi_f^* \phi_m d \textbf{r} = \begin{cases} 0 & (f \ne m ) \\ 1 & (f = m) \end{cases} \]

を考慮すれば、左辺・右辺の和の中の2つの積分部分において、\( m = f \) のものだけが生き残り、

ほかは0 となるから、

 

左辺 \( = E_n U_{fn}e^{-i\omega_f^{(0)} t} \ + \ \lambda \sum_m U_{mn} <\phi_f|H’|\phi_m > e^{-i\omega_m^{(0)} t } \)

右辺 \( = i\hbar \Biggl( \partial U_{fn}/ \partial t –  \Bigl(i \frac{E_f}{\hbar} \Bigr)U_{fn} \Biggr)  e^{-i\omega_f^{(0)} } \)

なお、ここで、\(   <\phi_f|H’|\phi_m > \) は \( \int \phi_f^* H’ \phi_m d \textbf{r} \) のことであり、右辺の中にある \( \frac{E_f}{\hbar} \) は、 \( \frac{E_f}{\hbar} = \omega_f^{(0)} \) からきたものです。\(   <\phi_f|H’|\phi_m > = \int \phi_f^* H’ \phi_m d \textbf{r} \) は、擾乱 \( H’ \)(摂動項) により、固有状態 \( \phi_m \) が変化したときに、固有状態 \( \phi_f \) が観測される振幅です。(観測される確率はその振幅の二乗)

 

ここで、もともとの左辺は右辺に等しく、左辺 \( = \) 右辺でしたが、上記の計算の結果である左辺、右辺は、積分の結果だから、左辺\( =\) 右辺 \( + A(t) \) となります。すなわち、空間座標を含まない、時間のみの関数 \( A(t) \) だけの不定性があります。このことを考慮に入れて、最終結果の左辺、右辺に関して、左辺 \( =\) 右辺 + \( A(t) \) とし、左辺、右辺を代入して整理すれば、

\begin{eqnarray} i\hbar \ \partial U_{fn}/ \partial t &=& A(t) \ + \ ( E_n – E_f ) U_{fn} e^{-i\omega_f^{(0)} t } \nonumber \\ &+& \ \lambda \sum_m U_{mn} <\phi_f|H’|\phi_m> e^{-i(\omega_m^{(0)}-\omega_f^{(0)}) t}  \end{eqnarray}

 

さて、この右辺第二項 \(  ( E_n – E_f ) U_{fn} e^{-i\omega_f^{(0)} t } \) は、\( U_{fn} \) がもともと 時間のみの関数 \( U_{fn} = U_{fn}(t) \) であったことを考えれば、この第二項全体が時間のみの関数であることがわかります。ゆえに A(t) を、第二項 \( + A(t) = 0 \) となるように、すなわち \( A(t) = \ -( E_n – E_f ) U_{fn} e^{-i\omega_f^{(0)} t } \) なる \( A(t) \) を選ぶことが可能です。 その結果、(1) 式としてきれいなかたち、

\[ i\hbar \frac{\partial U_{fn} }{\partial t} = \lambda \sum_m U_{mn} <\phi_f|H’|\phi_m> e^{-i \frac{E_m-E_f}{\hbar} t } \] を得ます。ここで、\( E_n = \hbar \omega_n^{(0)} \) を用いた。問題文(1)においては、和記号 \( \sum_m U_{mn} \) における \( m \) と、「\(U_{mn}\) …を与える式を求めなさい。」 の \( m \) とは同一のものではなく、いままで計算したなかで後者の \( m \) を \( f \) としてきたのですが、上結果において、

\( m \to k \) および、\( f \to m \) の置き換えを行えば、

\begin{eqnarray} i\hbar \frac{\partial U_{mn} }{\partial t} = \lambda \sum_k U_{kn} <\phi_m|H’|\phi_k> e^{-i \frac{E_k^{(0)}-E_m^{(0)}}{\hbar} t } \end{eqnarray}

を得ます。これが(ステップ 1) の最終結果です。計算中に使ってきた \( E_k は E_k^{(0)}, E_m は E_m^{(0)} \) としてある。 なお、\( U_{mn} = U_{mn}(t) \) は時間のみの関数であるから、\( \partial U_{mn}/\partial t \) も \(  dU_{mn}/dt \) も同じである。

 

(ステップ 2)

\( U_{mn}(t) = U_{mn}^{(0)}(t) + \lambda U_{mn}^{(1)}(t) + \cdots \) とおいて (1) で求めた \( d U_{mn}(t) /dt \) の式に代入し、\( \lambda^{(0)} \) の項から \( U_{mn}(t)^{(0)} \) を、\( \lambda^{(1)} \) の項から \( U_{mn}(t)^{(1)} \) を求めます。

【方針】 代入するだけの、計算力の問題ですが、これが摂動の計算です。

(2) 式に、\( U_{mn} = U_{mn}^{(0)} + \lambda U_{mn}^{(1)}  + \lambda^2 U_{mn}^{(2)} + \cdots \) を代入すると、

\begin{eqnarray} i\hbar ( \frac{\partial U_{mn}^{(0)} }{ \partial t  } + \lambda \frac{\partial U_{mn}^{(1)} }{ \partial t  } + \lambda^2 \frac{\partial U_{mn}^{(2)} }{ \partial t  } + \cdots ) &=& \lambda \sum_k U_{kn}^{(0)}<\phi_m|H’|\phi_k> e^{-i\frac{E_k-E_m}{\hbar} t } \nonumber \\ &+& \lambda^2 \sum_k U_{kn}^{(1)}<\phi_m|H’|\phi_k> e^{-i\frac{E_k-E_m}{\hbar} t } \nonumber \\ &+& \lambda^3 \sum_k U_{kn}^{(2)}<\phi_m|H’|\phi_k> e^{-i\frac{E_k-E_m}{\hbar} t } \nonumber \\ &+& \cdots \end{eqnarray}

となります。

\( \lambda^0 \) の項、すなわち \( \lambda \) の \( 0 \) 次の項
(定数の項) を両辺で見比べると、右辺に \( \lambda^0 \)の項つまり定数項はないから、

\[ i\hbar \ \partial U_{mn}^{(0)} / \partial t = 0 \] を得ます。これは、各 \( U_{mn}^{(0)}(t) \) が時間によらない定数であることを示しており、従って、\( U_{mn}^{(0)}(t) = U_{mn}^{(0)}(0) \) と書くことができます。

 

さて、添え字 \( n \) は、シュレディンガー方程式の解 \( \psi_n(\textbf{r}, t ) \) の添え字 \( n \) であり、この方程式の \( n \) 番目の解であることを示しています。この状態は、\( \psi_n(\textbf{r}, 0 ) \) を始状態とすることがこの表記からわかりますが、ここで、始状態は、とくに、固有状態 \( \phi_n \) であることにします。つまり、\( \psi_n(\textbf{r}, 0 ) = \phi_n \) です。ここにおいて、\( \psi_n (\textbf{r}, t ) \) は、単に \( n \) 番目の解ということでなく、固有状態 \( \phi_n \) を始状態として以降 時間発展していく系の解、という意味になりました。シュレディンガー方程式の解の値が、 \( t =0 \) において \( \psi_n(\textbf{r}, 0 ) = \phi_n \) であるということです。

こうすると、時刻 \( t = 0 \) において、\( n \) 番目の状態 以外 が観測されることはないわけだから、\( t = 0 \) における、摂動の \( 0 \) 次の振幅 \( U_{mn}^{(0)}(0) \)に関しては、 \[ U_{mn}^{(0)}(0) = \begin{cases} 0 & m \neq n \\ 1 &  m = n \end{cases} \] が言えることになります。

 

\( U_{mn}^{(0)}(t) \) が、時間によらない定数なのだから、結局、
\[  U_{mn}^{(0)} = U_{mn}^{(0)}(t) = \begin{cases} 0 & m \neq n \\ 1 &  m = n \end{cases} \] が言えます。この結果を (A) とします。

なお、\( U_{mn}(t) \) の意味について改めて述べておくと、\( U_{mn}(t) \) は、\( n \) 番目の固有状態 \( \phi_n = \psi_n(\textbf{r}, 0 ) \) からスタートした状態が時間 \( t \) だけ時間発展した \( \psi_n(\textbf{r}, t ) \) が、ほかの固有状態のどのような重ね合わせとして表されるかを示しています。すなわち \( U_{mn} \)はこの系の時刻 \( t \) においてそのそれぞれの固有状態 \( \phi_m \) が観測される振幅なのです。さて、始状態において、\( m = n \) 以外のすべての固有状態は観測されることがないから、\( m \neq n \) を満たす \( U_{mn}(0) \) は  \( 0 \) であり、\( U_{mn}(t) \) の、\( t = 0\) における、 \(x \) 次の摂動項の値 \( U_{mn}^{(x)}(0) \) もすべての次数 \( x \) で \( 0 \) となります。(※)

 

次に、\( \lambda^1 ( つまり = \lambda ) \) の項を考えます。(3) 式の両辺の \( \lambda \) の項の係数を比較すると、

\[ i\hbar \ \partial U_{mn}^{(1)} / \partial t = \sum_k U_{kn}^{(0)}<\phi_m|H’|\phi_k> e^{-i\frac{E_k-E_m}{\hbar} t } \] を得ます。\\

前段の (A) の結果より、上式の和記号 \( \sum_k \) の中の \( k=n \) の項だけが生き残り、
\begin{eqnarray} i\hbar \ \partial U_{mn}^{(1)} / \partial t = <\phi_m|H’|\phi_n> e^{-i\frac{E_n-E_m}{\hbar} t } \end{eqnarray}
を得ます。\( H’ \) は時間の関数であることを強調するため \( H’ = H'(t) \) と書いて、(4) を積分すると、
\begin{eqnarray} \  U_{mn}^{(1)} = \frac{1}{i \hbar} \int^t <\phi_m|H'(T)|\phi_n> e^{-i\frac{E_n-E_m}{\hbar} T } dT \end{eqnarray}
と書くことができます。これが (ステップ 2) の結果になります。

 

ここまで来て、ようやく具体的に遷移の確率(振幅)を計算する準備ができました。それでは、それらを求めていきます。

以降では、\( U_{mn}^{(1)}(t) \) を \( U_{fi}^{(1)}(t) \) と置き換えます。

 

(ステップ 3:突然、時間的に一定な摂動が加わる)

\( \hat{H’}(t) \) は、 \( t < 0 \) では \( 0 \)、\( 0 \ge t \) では一定値 ( \( = \hat{H’} \) と記す ) を取るような摂動ハミルトニアンです。このとき \( t \to \infty \) における単位時間あたりの \( i \to f \) の遷移確率 \( | U_{fi}^{(1)}(t) |^2 / t  \) を求めます。いよいよ遷移確率を求めます。

まず、なぜ \( U_{mn} \) の一次の項 \( U_{mn}^{(1)} \) が状態の遷移振幅を表しているのかというと、(2) でわかった通り \( U_{mn}^{(0)} \) は時間の定数であり、\( t = 0 \) において \( m \neq n \) のすべての \( U_{mn}^{(0)} \)が \( 0 \) なのであるから、時間が経過しても これらは \( 0 \) のままで、ゆえに \( U_{mn} = U_{mn}^{(0)} + U_{mn}^{(1)} + \cdots \) においては \( U_{mn}^{(0)} = 0 \) である \( U_{mn}^{(0)} \) の次に次数の低い \( U_{mn}^{(1)} \) の項が 実効的に \( U_{mn} \) を支配するからです。

以降、\( m \) を \( f \)、\( n \) を \( i \) に置き換えます。

【方針】 問題にある \( H(t) \) の具体形から 式 (5) の \( U_{fi}^{(1)}(t) \) の形を定めたうえで、\( |U_{fi}^{(1)} |^2 = U_{fi}^{(1)*} U_{fi}^{(1)}  \) を計算する。\( U_{fi}^{(1)} \) の \( i, f \) はともに固有状態の番号を表す数字ですが、\( i \) は initial state の \( i \) 、\( f \) は final state の \( f \) をそれぞれ意味しています。文字 \( i, f \) への書き換えは単に便宜上使用する文字を変えているにすぎません。

 

(5) 式を見ます。

時刻 \( t < 0 \) では \( H'(t) \) は 0 であるから、\( <\phi_f|H’|\phi_i> \) も 0 となり、\( U_{fi}^{(1)}(t) = 0 \ \ ( t < 0 ) \) となります。

時刻 \( t \ge 0 \) においては、\( H'(t) \) は一定であり、\( H'(t) = H’ \) です。ここでは \( H’ \) は一定値を意味するものとします。 (5) 式の 積分内の \( <\phi_f|H’|\phi_i> \) は外に出すことができ、

\begin{eqnarray} U_{fi}^{(1)}(t) = \frac{<\phi_f|H’|\phi_i>}{i\hbar} \int ^t e^{i\frac{E_f-E_i}{h} T} dT \nonumber \end{eqnarray}

となります。
この式の、積分部分を実行します。(※) で述べたように、\( U_{fi}^{(1)}(0) = 0 \) であることから、積分定数 を定めることができ、結果は、

\begin{eqnarray} U_{fi}^{(1)}(t) = \frac{1-e^{i\frac{E_f-E_i}{h} T} }{E_f-E_i} <\phi_f|H’|\phi_i> \ \ \ ただし (f \neq i)  \end{eqnarray}

となります。

(6) の結果から、\( |U_{fi}^{(1)} |^2 \) を計算すると、\begin{eqnarray} |U_{fi}^{(1)}(t) |^2 &=& U_{fi}^{(1)}(t)^* \times \ U_{fi}^{(1)}(t) \nonumber \\ &=& \frac{(1-e^{-i\frac{E_f-E_i}{h} t})(1-e^{i\frac{E_f-E_i}{h} t}) }{(E_f-E_i)^2} |<\phi_f|H’|\phi_i>|^2 \nonumber \\ &=& \left\{ \frac{2 sin \{ (E_f-E_i)t/2 \hbar \} }{E_f-E_i} \right\}^2 |<\phi_f| H’ |\phi_i> |^2 \nonumber \\ &=& \frac{ 4}{\hbar^2} \left\{ \frac{ sin \{ (\omega_f-\omega_i)t / 2 \} }{\omega_f-\omega_i} \right\}^2 |<\phi_f| H’ |\phi_i> |^2 \nonumber \\ &=& \frac{ 1}{\hbar^2} \left\{ \frac{ sin \{ (\omega_f-\omega_i)t / 2 \} }{(\omega_f-\omega_i)/2} \right\}^2 |<\phi_f| H’ |\phi_i> |^2 \end{eqnarray}
となります。ただし、\( \omega_f = \omega_f^{(0)}, \omega_i = \omega_i^{(0)} \)。

ここで、\( t \to \infty \) で、\( sin^2(\omega t/2)/(\omega/2)^2 \to 2\pi t \delta(\omega) \) であるという数学技巧を利用します。

これにより、(6) 式は、\( t \to \infty \) で
\[ |U_{fi}^{(1)}(t) |^2 = \frac{ 2\pi t \delta (\omega_f-\omega_i ) }{\hbar^2} |<\phi_f| H’ |\phi_i> |^2 \] となります。両辺を \( t \) で割れば、\\
\begin{equation} |U_{fi}^{(1)}(t) |^2 /t = \frac{ 2\pi \delta (\omega_f-\omega_i ) }{\hbar^2} |<\phi_f| H’ |\phi_i> |^2 \nonumber \end{equation} これが (ステップ 3) の結果になります。

\( \omega_i = \omega_f \) でなければこの確率振幅は \( 0 \) となるから、\( E_i = \hbar \omega_i , E_f = \hbar \omega_f \) を考えれば、これは、始状態から十分時間がたったあとにおいては、状態の変遷は エネルギーの等しい状態間 ( \( \omega_f = \omega_i \) つまり \( E_f = E_i \) ) でしか行われないことをしめしています。ただし、ゼーマン効果やシュタルク効果では、わずかに縮退が解けていてエネルギー準位の値は厳密に同一でなくデルタ関数も \( 0 \) になるところ、同一視してこの結果を利用します(多分)。

 

(ステップ 4:振動する擾乱)

さらに、振動場 \( \hat{H’}(t) = \hat{H’}e^{\pm i \omega t} \) に対する単位時間当たりの遷移確率 \( |U_{fi}^{(1)} |^2 / t \) を求めます。

 

前問 (3) の式 (5) にもどって計算します。(5) 式に  \( \hat{H’}(t) = \hat{H’}e^{\pm i \omega t} \) を代入すれば(そして \( m \to f, n \to i \) の置き換えをし、及び \( E_f = \hbar \omega_f (= \hbar \omega_f^{(0)}), E_i =  \hbar \omega_i (= \hbar \omega_i^{(0)}) \) とする )、

\[ U_{fi} = \frac{1}{i\hbar} <\phi_f|H’|\phi_i> \int^t e^{-i (\omega_i – \omega_f \pm \omega )T} dT \]

積分部分を実行して、
\begin{eqnarray} U_{fi}^{(1)}(t) = \frac{1-e^{i (\omega_f-\omega_i \pm \omega ) T} }{\hbar(\omega_f-\omega_i \pm \omega )} <\phi_f|H’|\phi_i> \ \ \ ただし (f \neq i) \nonumber \end{eqnarray}
さらに、
\( |U_{fi}^{(1)}(t)|^2 =  U_{fi}^{(1)}(t)^* \  U_{fi}^{(1)}(t) \) を計算すると、

\[ |U_{fi}^{(1)}(t)|^2 = \frac{ 1}{\hbar^2} \left\{ \frac{ sin \{ (\omega_f-\omega_i \pm \omega )t / 2 \} }{(\omega_f-\omega_i \pm \omega )/2} \right\}^2 |<\phi_f| H’ |\phi_i> |^2 \] を得ます。

 

(ステップ 3) で現れた、\( t \to \infty \) におけるデルタ関数の公式を利用したうえで (ステップ 3) と同じように計算すれば、

\begin{equation}
|U_{fi}^{(1)}(t) |^2 /t = \frac{ 2\pi \delta (\omega_f-\omega_i \pm \omega ) }{\hbar^2} |<\phi_f| H’ |\phi_i> |^2 \nonumber \end{equation}

 

という結果を得ます。これが、振動する外場 \( \hat{H’}(t) = \hat{H’}e^{\pm i \omega t} \) が加わった場合の、単位時間当たりの遷移確率 \( |U_{fi}^{(1)} |^2 / t \) です。具体的に外場は、振動数 \( \omega \) の 電磁波(光)と考えることもできます。

 

この結果は、外場の振動数 \( \omega \) の擾乱があると、振動数 \( \omega_i \) の始状態は、振動数 \( \omega_f \) が \( \omega_f = \omega_i + \omega \) または \( \omega_f = \omega_i – \omega \) の状態に遷移できることを示しています。エネルギーで言うなら、\( E_f = E_i \pm \hbar \omega \) の状態に遷移できる、あるいはそのエネルギー状態のみ許される、ということになります。エネルギーの授受に関する当然の結論(エネルギー保存)ですが、この摂動の方法によっても導くことができました。

さきほどの (ステップ 3) の結果も、あの場合は外場が加わっただけでエネルギー準位が恒常的に上昇しただけで原子に対してはそれ以降エネルギー加わっていなので、エネルギーが加わらなければ、同じエネルギー準位の状態間でしか遷移できない=エネルギーの変化はない=エネルギー保存則、を示していると言えます。

 

また、豆知識としては、量子力学ではいつもそうですが、たとえば先ほどの外場 \( \hat{H’}(t) = \hat{H’}e^{\pm i \omega t} \) で、結局は、振幅の部分 \( \hat{H’} \) は光子の数、振動の部分 \( e^{\pm i \omega t} \) はエネルギーを意味しているのです。量子電磁力学でこの対応関係がはっきりするのですが、つまり、\( < psi_f | H'(t) = \hat{H’}e^{\pm i \omega t} | \psi_i > \) は遷移の確率振幅ですが、定数 \( \hat{H’} \) が増えて確率振幅が比例して増えるということは、粒子数が増えるから反応確率が増え振幅が増えることを意味しており、また、\( e^{\pm i \omega t} \) は振動を表し、簡単に言ってしまうと、激しく振動していたら、それは激しい分だけエネルギーが高そうですよね?っていう理解になります。2倍激しく振動していたら、エネルギーも2倍。\( E = \hbar \omega \) そういう感じです。

 

参考文献:裳華房 量子力学演習(小出昭一郎、水野幸夫)

先に用いた、数学の技巧 \( t \to \infty \) における \( sin^2(\omega t/2)/(\omega/2)^2 \to 2\pi t \delta(\omega) \) がグラフ付きで解説されています。